俺たちは月を見ていた
砂浜に座り込み・・・波の音に包まれながら
「少し寒いか?」
「ううん、大丈夫」
問いかけは・・・肩を抱くための口実
行き場を失った腕・・・指先にサラサラと砂が触れた
「本当に綺麗だね・・・ムーンロード」
「ん?」
「お月様が海に映って・・・道ができてるでしょ
あれをムーンロードって言うんだよ」
月明かりと水面が織り成すムーンロード
の口から出た、その優しい響き
「あの道を伝って・・・
月からウサギが降りてきたら、おまえはどうする?」
「え〜?捕まえて飼っちゃおうかな」
嬉しそうに月を見て・・・がにっこりと微笑んだ
だから俺は・・・こう言うんだ
「じゃ・・目を閉じて?」
「え?」
「目を閉じないと、ウサギは照れ屋だから」
「そうなんだ、じゃ、目を閉じて・・・」
行き場を失っていた腕を肩へ回し・・・
もう片方の手で・・・おまえの頬に触れた
「なに・・・?」
「あ、目を開けるとウサギが逃げる」
「あはは、はいはい」
目を閉じたまま笑う
俺はのあごを・・・持ち上げた
すると・・・
「ねえ、珪くん」
「え?」
「今の珪くんの頭の中には、何があるの?」
頭の中に何があるのかって・・・・
目の前のの唇でいっぱいに決まってるだろ・・・
「もしかすると、ちゅーしようとした?」
「ぷっ」
わかってるなら、素直にさせてくれれば・・・・
と思いながら俺はおかしくて笑ってしまう
「、おまえは・・・本当に可愛いよ」
「え〜?!またまた、そんなこといっても何にも出ないよ〜」
何にも出ないって・・・・何にも出さなくていいし
相変わらず、目を閉じたまま
俺の言葉に照れを憶えたのか、はくすぐったそうに首をすくめた
「ねえ、珪くん、お月様見てもいい?」
「ん・・・」
俺はの肩を抱き、ぐっと頭を引き寄せる
髪に手を滑り込ませると・・・柔らかな香りが俺の鼻をくすぐった
「うさぎは月にいると幸せなの?」
「ああ・・・月はいいところだろ、きっと」
「それなら、どうしてムーンロードで地球に降りてくるの?」
「それは・・・・」
うさぎの気持ちは俺には分からないけれど・・・
の頭の中にあるさまざまな疑問は
まるで小さな子供が考えるみたいに素直で、疑うことを知らない
実際には、月にはクレーターがあって殺伐とした風景が続いているだけだ
でも、うさぎはそこにいる
そう信じる事の方が・・・俺たちには必要なんだと思う
「うさぎは・・・月で毎日楽しく暮らしてるけど
でも、地球を見ていると、気になるんだよな」
「気になるの?」
「ああ・・・地球にはたくさん人がいて他にも生き物がいて
目の前のことばっかり考えて、空も星も月も見ない」
「うん」
「だから、時々・・・もっと月を見ろって
優しい気持ちになれるぞって
うさぎは、それを教えにきてくれるんだ・・・」
「そうだったんだ・・・優しい気持ちになれるように・・」
俺はの髪をゆっくりと撫でながら・・・目の前のムーンロードを眺めていた
キラキラと海面で揺れる・・・月の道
遠い彼方、頭上で輝く月
あの場所に、うさぎがいて、この道で降りてくる
「でもな・・・うさぎは照れ屋だから見ようと思うと見えない
だけど、そこにいるって・・・俺にはわかる」
「うん、私にもわかる
今、とっても優しい気持ちになれたもん」
真っ直ぐに・・・月を見上げたの頬にキスをした
の瞳が・・・瞼に隠れ
俺の唇は、柔らかなの唇と重なってゆく
月明かりがくれた、優しい口付け
波の音だけが・・・ずっと変わらずに続いている
ムーンロードを降りてきた照れ屋のウサギが
呆れて月へ帰るまで・・・
重なった影は離れない・・・そんな月の夜
END
素材提供:はな様
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